不正による悪循環を断つ
2020年の前半だけで16億ドルがモバイル広告不正のリスクにさらされました。
この数字を見ると不安になると思います。
何年もの間、オンライン広告不正による損害を業界は絶えず被ってきました。業界の変化とともに不正も進化を続け、高度な技術を利用した巧妙化した手口が用いられるようになっています。近年、不正についての問題意識が業界全体で高まっているにもかかわらず、依然として不正に対し業界は頭を抱えている状態です。なぜ不正は解決しないのでしょうか?
広告不正によって騙し取られるのは、広告主のマーケティング予算です。しかし、広告主の中には自分には不正など関係ないと思っている人もいます。それ以上に問題なのが、不正行為が自分のビジネスにとって有利に働くと考えている広告主がいることです。このような広告主にとって不正行為は、自分たちのマーケティング活動の成果をすぐに得るための手段であり、獲得したインストールがどう生成されたか、アプリのユーザーがどこで獲得されたかは関係ありません。
しかし、この「マーケティング活動の成果」から得られ利益はあまりありません。多くの場合、マーケティング予算の直接的な損失をごまかしているだけです。また、マーケティング活動全体に長期的なダメージを与えることにもなります。
不正とは実のところ何なのか?
不正がなぜなくならないのかを理解するために、まずはオンライン広告のしくみが成り立つための基本的な前提について考えてみましょう。
広告主は、自分たちのキャンペーンを見たり利用したりしたユーザーを生成したメディアパートナーに報酬を支払う。
不正は、価値の偽装と言えます。このブログで説明している不正は、上の図で見える関係性の中で、何か1つが偽装されることによって発生します。
- ある不正では、偽のユーザーを生成したメディアパートナーに広告主が報酬を支払うことがあります。この「偽のユーザー」とは、広告を見たりクリックしたりしたことがなく、アプリを利用する気のないユーザーのことで、広告主にとって価値がないユーザーです。不正の手口によっては、この偽のユーザーは、実在しない架空のユーザーであることもありあす。
- 実際に価値のあるユーザーが生成されているものの、そのユーザー生成に何も貢献していないパートナーに対し広告主が報酬を支払うことがあります。これはアトリビューションハイジャックという不正で、質の高いユーザーの獲得に貢献した優良メディアソースに与えられるべきクレジット(インストールに貢献したという評価)を不正事業者が横取りします。
不正事業者に報酬を与え、優良事業者のやる気を削ぐという点で、この不正によるダメージは2倍になると言えます。
さまざまな不正の手口
モバイル広告不正は、大きく次の2種類に分けることができます。
- アトリビューションハイジャック – 実際のユーザーによるクリックを偽装することで、そのユーザーがアプリをインストール(オーガニック/非オーガニックを問わず)した際に、そのクレジットを不正事業者が横取りする。
- 偽のユーザー – 不正事業者が実在しない偽のユーザーを作成し、その偽のユーザーによってクリック、インストール、アプリ内イベントを生成する。
偽のインストール
ボットやデバイスファームは、数百万のユーザーを簡単に生成できます。生成されたユーザーは広告主のアプリをインストールした後に消滅します。こうやってアプリのインストール数が膨らんでいきます。
この不正によって、直接的な金銭的損失、そしてそれ以上の損失が発生します。人間と機械を区別することができないと、これらの生成されたユーザーは広告主のオーディエンスに溶け込みます。そのため、広告主のデータは汚染されてしまい、それ以降のリターゲティングや再利用でデータが役に立たなくなります。
アトリビューションハイジャック
アトリビューションハイジャックでは、偽のユーザーと同様に、直接的な金銭的損失とデータ汚染が発生します。それに加えて、アトリビューションハイジャックでは、広告主の主要なパートナーとの関係にダメージが発生します。
アトリビューションハイジャックは、オーガニック、非オーガニックにかかわらず、実在するユーザーのインストールのクレジットを横取りする不正です。実在するユーザーがクリックしたように偽装し、実際にインストールがあったときにそのクレジットを盗む様々な手口があります。広告主にとって唯一の救いは、ユーザーが少なくとも実在するということです。
アトリビューションモデルを悪用し優良パートナーからインストールのクレジットを奪うことで、不正事業者は広告主によるメディア利用についての意思決定と予算配分の全体を歪曲させてしまいます。質の高いパートナーに支払われるはずだった報酬は、悪質なパートナーに支払われることになります。これにより、広告主のキャンペーンを攻撃する循環的なスキームを不正事業者は継続し、優良なパートナーとのビジネスを遠ざけることになります。後になって、質の高いユーザーを提供してくれるプロバイダーとビジネスをしたい場合に、これが長期的で深刻な悪影響をおよぼします。
オーガニックユーザーの獲得クレジットを盗む行為は、まさに不正事業者が広告主のお金を盗む行為と言えます。オーガニックユーザーは、アプリをダウンロードに広告のエンゲージメントを必要としなかったユーザーだからです。
オーガニックユーザーハイジャックは、マーケティング予算を盗む行為です。ほかのユーザーの獲得や、製品開発などに使えるはずだったリソースを奪います。
不正が発生して、お金を払わないといけなくなるのは広告主です。この数年間、不正についての問題意識は広告主の中で大きく広まりました。しかし、マーケターの中には依然として不正をタブーな話題と見なし、オープンに議論することを不快に感じる人もいます。不正による損失を運用コストとして受け入れ問題視していない広告主もいれば、この問題全体を単に無視することを選択する広告主もいます。
しかし、「そのうち消えてなくなる」ことを期待してこの問題を無視すると、さらに大きな損失を長期的に被る可能性が高くなります。広告主が不正に対し適切な対策を講じなければ、それは不正を温存していることと同じです。一方で不正事業者は、いわゆる「マイナスのキャッシュサイクル」に沿って広告主の予算を絞り取り続けます。
マイナスのキャッシュサイクル
モバイルアプリをとりまく経済活動が大きな成長を続け、多くのブランドやアプリは、投資家や経営陣から活発な成長を期待されることがよくあります。こういった期待を背負うのはCMO(最高マーケティング責任者)です。そして、CMOはさらに多くの広告予算を求めることになります。このような目標を提示されれば、質よりも量を選択するCMOも少なくありません。
高いユーザー獲得目標のもと「数」を優先させる場合、ユーザーLTVのような品質を計測するKPIが無視され、インストール数がキャンペーンの成功の唯一のベンチマークに設定されることがよくあります。これにより、メディア購入チームは、ROI計測においてそれと同じことをすることになります。メディアのバイヤーは、マーケティング予算に対してより多くのインストールを提供しそうな安価なメディアソースを求めることになります。
ここで報酬の大半を享受するのが不正事業者です。常に報酬が支払われるキャンペーンは「簡単な標的」と見なされ、不正行為が横行することになります。ボットやデバイスファームで架空のユーザーが生成され、広告主の他のメディアパートナーからアトリビューションのクレジットが盗まれ、重大な損失を被ることになります。
キャンペーンのパフォーマンスを評価するときには、メディアバイヤーは求めていた結果、つまりインストールの増加を見ることができるでしょう(インストール数が評価で考慮するよう指示されている唯一の指標なのかもしれません)。
その結果はCMOの目に好調だと映るでしょう。アプリのインストール数を示すグラフは増加曲線を描いています。CMOが求めるのは、インストール数の増加だけです。
CMOがその好調に見える結果を取締役会で報告すれば、その結果に満足した取締役会がさらに多くのインストールを望むようになります。その結果、広告費につぎ込む金額が増えることになり、このサイクルが推進されます。
次のような疑問を持ちこの状態に対処する人が現れない限り、このサイクルは続くことになります。
- 獲得したユーザーが実際にどの程度の収益を生み出しているか?
- 獲得したユーザーは積極的にアプリを使用しているか?
- 獲得したユーザーは実在するのか?
- そのユーザーの獲得に対し、自分たちがお金を支払う必要があったのか?
Win-Winというより大損
不正事業者は、このサイクルが続けば幸せです。その幸せな状態を維持するために不正事業者は、この不正インストールが広告主にとって有益でありWin-Winであると広告主を説得します。
実際のところは、最悪の搾取関係です。
このタイプの活動から恩恵を受けるのは不正事業者だけです。広告主が被る損害は倍増し金銭的損失だけには止まりません。広告主がこの事実に気づいたりこのサイクルを停止したりすれば、すぐに不正事業者は次の標的に狙いを定めて不正行為を継続します。
藁の中の針を探す
上記の例は、氷山の一角に過ぎません。インストール不正率の平均は15% で、カテゴリによっては40%の不正率に苦しんでいるところもあります。
キャンペーンで不正行為の検出を怠れば、マーケティング予算の大部分が無駄になり、将来のキャンペーン判断が操作され誤ったものになることを意味します。
次の表で、非常に簡単な例をお見せします。
両方のマーケターは、200ドルの予算でユーザー獲得キャンペーンを開始しました。
両方のキャンペーンで、合計100人の新規ユーザーを生成しました。
両方のマーケターの結果に対する満足度は同等でしょうか?
同等ではないでしょう。
両方のマーケターが100人の新規アプリユーザーを獲得しましたが、マーケターBの獲得したユーザーには、利用していたパブリッシャーに誤ってクレジットが付与された40人のオーガニックユーザーが含まれていました。これらのオーガニックユーザーは、アプリをインストールする過程で、広告とのエンゲージメントを持つこともなく、自身の判断だけでアプリをインストールしています。
一方、マーケターA は、正当に獲得されたユーザーに対する報酬をパートナーに支払いました。獲得されたユーザーは、広告とのエンゲージメントの後にパートナーおよびパブリッシャーからアプリをインストールするように誘導されたユーザーです。
両方のマーケターは同じ金額を費やしました。マーケターAは、広告を見たりクリックしたりしてからアプリをダウンロードしたユーザーの獲得に費用を賢く使いました。しかし、マーケターBは、広告を見なくてもアプリをインストールしたユーザーの獲得に予算の40%を使い無駄にしました。マーケターBがオーガニックユーザーに費やした80ドルを使えば、コンバージョンに広告とのインタラクションを必要とする40人の新規ユーザーを獲得できたはずです。
獲得したユーザーの質については分析してみないとわかりませんが、不正なインストールを除外したマーケターAの方が実質的に良い立場にあるのは確かです。マーケターB がアクティビティを詳しく分析しなければ、損失率は40%を上回る可能性があります。不正事業者は不正行為を継続し、優良パートナーがキャンペーンを終了してしまうからです。
重要なポイント
不正行為に対処しない場合に考えられる最良の結果は、全体的なROIがプラスのままであることです。しかし、時間の経過とともにマージンは減り続けます。最悪の結果(より一般的)は、ユーザー獲得活動のROIがマイナスとなり、会社の予算を搾り取られることです。
不正は必需品ではありません。一緒に生きていく方法を学ばないといけないものでもありません。必要な疑問を常に持ち、量ではなく質の高いユーザーを提供するようメディアパートナーやソースに高い水準を設定することで、不正は撃退できます。
不正を無視したり、何らかの形で不正は利益をもたらすと信じたりすることには、単に避けられないことを先延ばしにしているだけです。不正においてWin-Winはありません!違法な方法でお金を騙し取ろうとしている不正事業者にお金を支払うことになります。
マーケティング活動はマイナスの結果になるべきではありません。マーケティング活動は、お金を生み出し利益を得るための活動であるべきです。マーケティング活動をあるべき姿に戻すには、不正のサイクルを断ち、不正事業者によるキャンペーンの悪用を止めることから始めます。不正行為を働きにくくすれば、不正事業者は他の場所で標的を探すしかなくなるからです。