アドテック
アドテックとは、オンライン広告業界のインフラを構成するテクノロジープロバイダーやシステムの市場を指します。
アドテックとは
アドテックとは、アドバタイジングテクノロジーの略で、デジタル広告の売買を可能にするソフトウェア、ツール、システムの総称です。アドテックにより、広告主はオーディエンスのセグメント化、オンライン広告スペースの購入、広告の配信、パフォーマンスの分析を行うことができます。
オンライン広告の売買は、広告主(宣伝したいコンテンツを持つブランド)、パブリッシャー(販売したい広告スペースを持つサイトやアプリ)、仲介者のネットワークが関わる複雑なプロセスです。アドテックは、これらすべてのプレーヤーを結びつけ、交渉やキャンペーンの実施に必要なツールとプラットフォームを提供します。
アドテックとマーテック:その違いとは
アドテックとマーテック(察しがついているでしょうが、マーケティングテクノロジーの略です)は混同されがちですが、いくつかの明確な違いがあります。マーテックは、あらゆるマーケティングテクノロジー製品を網羅する包括的な用語で、ポッドキャスティング、コンテンツ管理、ソーシャルメディア管理プラットフォームなどが含まれます。アドテックは、マーテックという大樹から伸びる1本の枝と考えるとわかりやすいでしょう。
社内のマーケティングチームはさまざまなマーテックプラットフォームを構築し、メール、ソーシャルメディア、ウェブサイトを通じて、リードや顧客と直接コミュニケーションを図ろうとしています。しかし、これらのプラットフォームは、オンライン広告の入札や出稿プロセスで実利的な役割を果たすことはありません。
一方、アドテックプラットフォームは、多くの場合広告代理店が管理します。仲介役として機能し、広告購入プロセスを自動化して、企業に代わってオーディエンスのインプレッションを購入します。
アドテック | マーテック | |
対応メディアの種類 | 有料オンライン広告 | 有料オンライン広告、メールマーケティング、SMSマーケティング、オーガニックソーシャルメディアマーケティング、ウェブサイトパブリッシング、SEO/SEM、オーガニックビデオおよびオーディオコンテンツ |
課金モデル | 広告費用+手数料 | 定額制 |
主なオーディエンス | 広告代理店とパブリッシャー | 社内マーケターおよび広告代理店 |
広告主にとってのアドテックのメリット
オンライン広告が複雑化するにつれ、広告主がキャンペーンを管理、計測するための新しいツールやソリューションが登場しています。アドテックにより、広告主はチャネルを横断してキャンペーンを実施し、特定のオーディエンスにリーチして、パフォーマンスを分析できます。
ここでは、アドテックが時間の短縮とデジタルキャンペーンの最適化にどのように役立つのか説明します。
1.自動化とスケーリング
アドテックが登場する前は、広告管理者は個々の広告スロットやプレースメントの調査、選択、承認まで、すべて手作業で行っていました。現在では、ブランドはAIや機械学習などの自動化技術を活用して、広告スペースの購入や、リアルタイムの結果にもとづくキャンペーンの最適化を行っています。
つまり、アドテックツールがあれば、大きなマーケティングチームがなくても、大規模なキャンペーンを容易に実施できるわけです。
2.広告費の最適化
アドテックにより、デモグラフィックを正確に特定してリーチできます。理想的なオーディエンスに届くかどうかわからない一般的な広告に予算を費やす必要がなくなります。
3.クロスデバイストラッキング
アドテックを使うと、デバイスをまたいだオムニチャネルキャンペーンを実施できます。これは、メールアドレスやCookieにもとづいてユーザーを認識し、他のデバイスと照合することで可能になります。ネットワーク内でマッチングが成立すると、アドネットワークはリエンゲージメント広告を配信し、消費者に複数のタッチポイントを提供します。また、クロスデバイストラッキングにより分析の精度が向上し、デバイスをまたいだカスタマージャーニーの全体像を把握できます。
4.スピード
アドテックではキャンペーンアセットを瞬時に入札に出せるため、適切なキャンペーンをすばやく立ち上げて、交渉や出稿依頼をする手間を省けます。そうすることで、ブランドの露出、リードの獲得、販売までを短期間で実現できます。
プログラマティック広告:アドテックの核
アドテックは、プログラマティック広告(自動化された広告購入プロセス。広告主は正確にセグメント化されたオーディエンスにリアルタイムにアクセスできます)に欠かせません。プログラマティックはオンライン広告の未来といわれています。Allied Market Researchは、2021年のプログラマティック広告業界を4,510億ドル規模と評価し、2031年までにさらに36%成長すると推定しています。
ここでは、アドテックで実現したプログラマティックの仕組みを紹介します。
- 広告主がアドネットワークと契約し、キャンペーンを開始します。デマンドサイドプラットフォーム(DSP)を通じて、広告主は求めているもの、つまりリーチしたいオーディエンスと獲得したいインプレッション数を市場に伝えます。
- 広告主は、広告コンテンツ(主にディスプレイ、動画、ソーシャル、音声)をネットワークに配信します。
- 一方、パブリッシャーは、提供可能な広告スペース(インベントリ)をサプライサイドプラットフォーム(SSP)に掲載します。
- アドエクスチェンジが両者をつなぎ、リアルタイム入札(RTB)形式で広告コンテンツのオープンオークションを実施します。SSPは、アドネットワークやパブリッシャーに代わり広告コンテンツの入札に参加します。オークションにかかる時間はほんの一瞬です。
- 落札者は自身のプラットフォームに広告を掲載し、アドネットワークを通じて広告主に分析データを共有します。
プログラマティック広告に携わるさまざまな仲介者やインフラは、すべてアドテックといえます。詳しくは後述します。
アドテックのエコシステム
アドテックの複雑さを理解するために、アドテックのエコシステムを構成するさまざまな要素について個別に見ていきましょう。
エージェンシートレーディングデスク(ATD)
広告代理店の一部門で、クライアントに代わってメディアのプランニングとバイイングを行います。ブランドはDSPを通じて自ら実行できますが、ATDにはプロによる指導力と代理店ならではの購買力があります。ATDは多くのクライアントの代理人であるため、複数のDSPと連携できるほか、一括交渉による値下げも期待できます。
デマンドサイドプラットフォーム(DSP)
DSPは、広告主がオンライン広告枠を入札、購入し、広告を出稿できるようにする自動化プラットフォームです。広告主は、単一のインターフェイスを介して複数のアドエクスチェンジアカウントを管理し、キャンペーンのパフォーマンスに合わせてリアルタイムで設定を変更できます。
サプライサイドプラットフォーム(SSP)
SSPは、アドエクスチェンジ全体でパブリッシャーの広告インベントリ(提供可能な広告スペース)を管理するプラットフォームです。SSPと連携することで、パブリッシャーはインベントリを大規模に販売、管理し、リアルタイムのプログラマティックセリングを通じて収益を得られます。
アドネットワーク
パブリッシャーは、アドネットワークを通じてインベントリを管理し、直接収益を得られます。アドネットワークは、複数のエクスチェンジからの入札とインベントリをプールし、パブリッシャーと広告主の売買を仲介します。アルゴリズムを使用したマッチングにより、広告主のターゲットオーディエンスに最適なパブリッシャーを特定します。
アドエクスチェンジ
アドエクスチェンジは、プログラマティック広告のDSPとSSPの両サイドを中立的かつ透明性の高い環境で結びつけるテクノロジーです。株式市場が買い手と売り手を結びつける構図と似ています。基本的にオープンなインプレッションプールであり、アルゴリズムと機械学習を使用してミリ秒単位で入札プロセスを促進します。
アドサーバー
アドサーバーは、キャンペーンのクリエイティブアセットの保存、ユーザーに配信するバージョンの選択、キャンペーンのパフォーマンスに関するデータの収集を行うプラットフォームです。
データマネジメントプラットフォーム(DMP)
DMPは、オンライン広告用にユーザーデータを収集、保存、展開する一元的なデータベースです。複数のソースからデータを収集し、ユーザーのデモグラフィック、興味感心、オンラインでの行動などでプロファイルを構築します。
アドテックのトレンドと課題
アドテック業界はこの20年で成長を遂げ、成熟期に入りました。新しいテクノロジーやプロバイダーが登場したことで、広告の売買はより迅速かつ効率的になっています。現在に至るまで、テクノロジーはユーザーの嗜好や変化し続ける規制環境を反映し、適応してきました。
今日のアドテックをめぐる主なトレンドと課題をまとめながら、今後状況はどのように変わっていくのかを考えてみましょう。
1.プライバシーとデータセキュリティ
プログラマティック広告では、主な基盤であるCookieによってIDのマッチングやリエンゲージメントを実現しています。しかし、プライバシーを懸念する消費者や規制当局からは、Cookieやクロスデバイストラッキングに反対する声が上がっています。ユーザーのセキュリティを損なうことなく、広告主が引き続き必要なデータを収集し、分析できるように、アドテック業界はさまざまな状況に適応しながら、代わりとなるトラッキング方法を開発しています。
まず、AppleはApp Tracking Transparency(ATT)フレームワークを導入し、広告主が取得できるデータを制限しました。次に、Googleは2024年までにサードパーティーCookieへの依存から脱却すると発表しました。Android広告はGoogle Advertising ID(GAID)トラッキングに大きく依存しています。GoogleはそのGAIDを段階的に廃止し、プライバシーサンドボックスに移行する準備を進めており、現在多くの広告主がさらなる変更に身構えています。
2024年以降、Googleはユーザーの一部をプライバシーサンドボックスに移行します。プライバシーサンドボックスでは、個人の行動を記録、保存せずに、ユーザーを匿名化して、類似する興味関心を持つグループにプールし、そのグループのデモグラフィックや興味関心にもとづいて広告コンテンツを提供します。Googleは、顧客の保護と広告主が求めるインサイトやインプレッションの提供を両立するため、移行プロセスを通じて広告主やデベロッパーに意見を求めていくとしています。
2.CTVの計測
ストリーミングが業界を席巻しています。現在、米国の87%の家庭がコネクテッドテレビ(CTV)デバイスを少なくとも1台は所有しています。CTVデバイスには、スマートテレビ、ストリーミングボックス、ゲーム機などがあります。
ストリーミングにより、アドネットワークは、番組の合間に一般視聴者向けのリニア広告ではなく、ターゲットを絞った動画広告を配信できるようになります。CTVを活用すると、広告主は興味関心、デモグラフィック、地域、時間帯にもとづき、価値の高い視聴者にリーチするチャンスを得られます。
ターゲットを絞ったブランド露出に加え、CTVは広告主に強力な計測オプションを提供します。クロスデバイスデータにより、広告主はCTV-to-mobileアトリビューションをトラッキングし、顧客のライフサイクルにおけるアプリインストールとインストール後のイベントを計測できます。今日の経済状況では、マーケティングに費やした予算の効果を正確に把握することがこれまで以上に重要になっています。
3.ゲーム内広告
アドテック分野では、ゲーム内広告も急成長しています。モバイルゲームの人気はコロナ禍で急上昇しました。現在伸びは落ち着いており、ゲームアプリのマーケターはユーザー獲得に力を注いでいます。2023年、ゲームアプリのインストールを目的とした広告に費やされた予算は、世界中で合計267億ドルにのぼりました。
動画広告を視聴してライフや報酬を獲得するという仕組みは、ゲーム内広告の一例に過ぎません。この仕組みは広告主とパブリッシャーの双方にメリットがありますが、アプリのデベロッパーはゲーム内広告とユーザー体験のバランスを取る必要があります。アドテックは、ウェブサイトや動画プラットフォームの場合と同じように、アプリでも入札を促進し、広告コンテンツを配信できます。
4.DOOH広告
オフィスの近くで看板広告を見かけたとします。おそらく、広告担当者が街にある看板の中からそれを自分で選び、看板の所有者と直接交渉したのでしょう。アドテックは、このように時間がかるアナログな作業を大幅に効率化できます。
専門家の試算では、世界中のDOOH(デジタルアウトオブホーム)市場は188億ドル規模であり、2030年までに11.6%の成長が見込まれます。プログラマティック広告を使えば、広告主はいつでもDOOHキャンペーンを開始できます。また、天候や時間帯など特定の要素でオーディエンスをターゲティングできるため、大きな効果を狙えます。
重要なポイント
- アドテックは、デジタル広告の未来ともいえるプログラマティック広告を支えるインフラです。
- プログラマティックバイイングおよびセリングにより、広告主は広告配信プロセス全体を自動化し、詳細なユーザーインサイトを収集して、最も関連性の高い広告プレースメントにリアルタイムで入札できます。
- アドテックを利用すると、ブランドはキャンペーンを速やかに開始し、自動化によって瞬時に規模を変更できます。ターゲティングの精度が上がるので、広告費を最適化できます。
- アドテック企業はユーザーの嗜好や規制の変化に適応し、顧客のプライバシーを重視して、トラッキングを制限する方向に舵を切っています。Googleのプライバシーサンドボックスなどの取り組みは、Cookieによるトラッキングからのシフトを反映しています。
- ゲーム内広告やDOOHと並び、CTVも強力なアドテックツールです。広告主はスマートテレビ、ゲーム機、ストリーミングデバイスを通じて理想的なオーディエンスにリーチできます。CTVは正確なターゲティング機能や双方向性を備え、結果を計測できます。時代をリードしたいブランドにとって魅力的な選択肢となります。