GAID廃止へ:AppsFlyerのiOS専門家がGoogleのプライバシーサンドボックスを語る
Googleは3月、世界最大のシェアを誇るOSであるAndroidで、2024年までにGAID(広告主向けのユーザー識別子)を廃止すると発表しました。
GAID (Google Advertising ID)(英語) とは、広告表示を目的にAndroidデバイスで生成されるID(英語)です。このIDにより、ユーザーのプライバシーを一定程度確保しながら、広告エコシステムの高い機能性も維持できるとされています。
GAIDには主に3つの用途があります。
- マーケティングパフォーマンスの計測(アトリビューション)
- セグメンテーション:マーケティング目的でユーザーのリストを作成
- 広告のパーソナライズ:ユーザーのアクティビティや興味関心に合わせてコンテキスト広告を表示
この記事では、これらのユースケースを軸に、GAIDが広告エコシステムで現在どのように利用されているのかを押さえながら、廃止されることによる影響と、起こりうる新たな課題への対策としてGoogleが提案するソリューションについてまとめています。
各ユースケースへの理解を深め、Androidプライバシーサンドボックスが導入スケジュールどおりに運用開始されたという想定のもと、GAID廃止の影響を考えていきましょう。
マーケティングパフォーマンスの計測(アトリビューション)
Androidでは、主なアトリビューション方法としてGoogle Play ReferrerとIDマッチング(GAID)の2つがあります。これらのアトリビューション方法がどう変わるのか調べていると、Googleのプライバシーサンドボックスに関する最新文書に次の内容が含まれていないことがわかりました。
- Google Play Referrerの廃止(良いニュースです)
- Appleのアプリケーションのトラッキング申告(ATT)(英語)に相当する同意メカニズム。このため、iOSにおけるIDFAとは異なり、GAIDは完全に廃止されるとみられています(必ずしも悪いニュースではありません)
AndroidプライバシーサンドボックスがGoogle Play Referrerと連動するなら、優れたアトリビューション機能が損なわれることなく、広告主は(MMP(英語)を通じて)リアルタイムでユーザーを計測できます。
さらに、ディープリンク(およびディファードディープリンク(英語))にも対応し、エンドユーザーは広告からアプリにシームレスかつコンテキストに沿って移行できます。
Google Play Referrerはプライバシーに配慮した優れたソリューションで、関係者全体でユーザーIDを使用したり共有したりする必要がありません。
ただ、Google Play Referrerには次の2つの弱点があります。
- 直接のインストールのみ:ユーザーが広告をクリックしてもすぐにアプリをインストールしなかった場合、Google Play Referrerではユーザーと広告は紐付けられません。
- Google Playストアからのインストールのみ:ストア外アプリはGoogle Play Referrerと紐付けられません。
プライバシーサンドボックスはアトリビューションレポートのAPIとしても機能し、Android版アプリやウェブ全体のアトリビューションとコンバージョンをオンデバイスで計測できます。アトリビューションAPIとしての主な機能は次のとおりです。
- 各アドネットワーク(英語)が、自身のタッチポイントやアトリビューション設定に応じてアトリビューションを取得できます(ネットワーク横断的なものではありません)。
- 各種アドネットワークや広告主が選択したアトリビューション設定をまたいでアトリビューションを生成できるのは、MMPだけです。
- アトリビューションAPIのレポートの内訳は次のとおりです。
- ユーザーレベルのレポート:主にパブリッシャー向け。3ビットに制限され、データの鮮度は落ちます。
- 集約レベルのレポート:非常に幅広い機能を備え、盛り込めるキャンペーンとユーザープロパティの項目はほぼ無限。インストール後最大30日間のLTV(英語)を計測できる、ほぼリアルタイムのレポートです。
AppsFlyerとしては、Google Play Referrerやプライバシーサンドボックスなど、利用可能なすべてのアトリビューションソースを統合して、包括的なスナップショットを作成したいと考えています。
セグメンテーション
ユーザーアトリビューションリストの作成によく用いられるのが、ユーザーのセグメント化です。リストはネットワークやマーケティングエンゲージメントツールに送信され、ユーザーに合わせたマーケティングコンテンツのカスタマイズに活用されます。
Googleの新たなソリューション群ではユーザーレベルのリストを利用できなくなるため、業界としては次のいずれか、または両方のオプションに対応していくことになるでしょう。
- Googleが提案するFLEDGEを使用します。
- ユーザーの許可や同意を得たうえで、ファーストパーティ識別子を使用します(GAIDほどの可用性はないにしても)。
Googleが提案するFLEDGEの特長は、広告主がオーディエンスを定義し、アドネットワークと連携して、オンデバイスのオーディエンスリストをもとにセグメント化した広告を表示できることです。このソリューションはエンドユーザーの識別子を共有することなくオンデバイスで機能するため、ユーザーのプライバシーは維持されます。
広告のパーソナライズ
GAIDの廃止とプライバシーサンドボックスは、アドネットワークのマーケティング能力に大きな影響を与えるでしょう。特に、サードパーティアプリ全体からユーザーのアクティビティデータを収集してきたアドネットワークへの影響は避けられません。
Googleは、オウンドアプリやコンテキストアプリの広告とは異なるクロスアプリソリューションとしてTOPICSを提案しています。
TOPICSにより、各パブリッシャーのアプリにはAndroidからさまざまなトピックスが提供され、興味関心にもとづく広告配信に役立てることができます。
導入に向けた第1段階は、広告主がアプリ公開時にGoogle Playにアップロードし、一般公開している情報を学習させることです。たとえば、バンドル名、アプリカテゴリなどです。
広告のパーソナライズの方法としてはまだ弱いかもしれませんが、TOPICSエンジンへのインプットが増え続けていけば、ソリューションとして大きく成長できるでしょう。
まとめ
GAIDが廃止され、クロスアプリ識別子がなくなるという事態は、広告業界にとってまさに衝撃です。
とはいえ、広告主、パブリッシャー(英語)、アドネットワークはGoogleが提案する新たなソリューションを利用できますし、AppsFlyerはそれを支援できます。これは大きなチャンスといえるかもしれません。
業界のリーダーであり、iOSで実施されたプライバシーに関する変更にもいち早く対応してきたAppsFlyerから見て、Googleによる変更はそれに対応する広告主とエンドユーザーの両者にとってメリットがあると断言できます。