AVOD(アドバタイジングベースドビデオオンデマンド)
AVOD(アドバタイジングベースドビデオオンデマンド)は、ビデオオンデマンドプラットフォームが用いるマネタイズ戦略の1つです。広告を見てもらう代わりに、ユーザーにオンデマンドコンテンツへの無料アクセスを提供します。発生した広告収益を、制作費やホスティング費用に充てます。
AVODとは
AVODは、複数の大手ビデオオンデマンドプラットフォームが用いるマネタイズモデルの1つで、視聴者にプラットフォーム上のビデオコンテンツへの無料かつ無制限のアクセスを提供します。
この戦略は、視聴者にコンテンツの視聴料を払ってもらうのではなく、プラットフォームの膨大なオーディエンスを活用し、広告収益を得ることを目的としています。
多くの視聴者がこれらのプラットフォームに夢中になっていることからもわかるように、好きな動画を無料で見られるというのは、ユーザーにとって非常に魅力的です。米国では、AVODの視聴者数が2023年末までに約1億4,000万人に達し、2026年までには1億7,000万人を超えると予測されています。
細かい話に入る前に、AVODに関わるプレイヤーとこの戦略の仕組みを押さえておきましょう。
パブリッシャー
AVODは、コンテンツを制作またはホストするOTTプラットフォームであり、広告主が広告掲載料を支払います。
視聴者にとって魅力的なコンテンツであればあるほど、広告主にとっても魅力的なコンテンツとなり、パブリッシャーにはより多くの収益をもたらすことになります。
AVODプラットフォームでは、質の高いコンテンツへの無料アクセスをユーザーに提供することで、視聴回数を伸ばします。
広告主
広告主はパブリッシャーに広告料を支払い、ストリーミング動画コンテンツに広告を掲載することで、ブランド認知を高め、コンバージョンを促します。
プラットフォームでの広告ターゲティングは、パブリッシャーに依存するケースが一般的です。パブリッシャーはユーザーレベルのデータにアクセスし、正確なセグメンテーションと高度にパーソナライズされたターゲティングを行います。そのため、高い広告費回収率(ROAS)を期待できます。
コンテンツクリエイター
AVODプラットフォームでは、コンテンツの制作も購買も必要ありません。代わりにたくさんの独立系コンテンツクリエイターがコンテンツを投稿しています。このようなクリエイターは、自身のブランドを構築するだけでなく、広告収益の配分やスポンサーシップからも利益を得られます。
ユーザー
AVODモデルの最終消費者であるユーザー(視聴者)は、パブリッシャーのプラットフォームにアクセスし、好きなコンテンツを無料で視聴します。再生中のどこかのタイミングで広告が流れます。
AVODプラットフォーム
AVODプラットフォームはユーザーに絶大な人気があり、米国ではインターネットユーザーのおよそ2人に1人がよく利用しています。
もっとも有名なAVODプラットフォームはYouTubeで、25億人超のアクティブユーザーを抱える動画界の巨人です。プラットフォームへの登録は無料ですが、コンテンツを視聴するには、選んだ動画の前後や途中に表示される広告を見る必要があります。
YouTubeはコンテンツクリエイターに動画を制作、投稿し続けてもらえるよう、広告収益の一部をインセンティブとして提供しています。
ほかのAVODプラットフォームでは、HuluやTubiも人気があります。YouTubeもそうですが、Huluも広告なしでコンテンツを視聴したいユーザー向けにプレミアムプランを提供しています。
AVODの仕組み
AVODプラットフォームでは、どのようにして視聴者に広告を見せているのでしょうか。方法は2つあります。
クライアント側の広告挿入(CSAI)
この方法では、視聴者の動画プレイヤー(クライアント)にリアルタイムで直接広告を挿入します。ストリーミング内の広告マーカーが広告リクエストを送信し、動画が一時停止します。ユーザーのデバイスに関連性の高い広告が配信されたのち、動画が再開します。リアルタイムで処理されるため、広告主は思いどおりに管理し、オーディエンスを正確にターゲティングできます。
サーバー側の広告挿入(SSAI)
この方法では、広告はサーバー側の動画ストリーミングに配置されたのち、視聴者のデバイスに送信されます。地域、行動、デモグラフィックなどに合わせて広告を調整できるため、動的広告挿入とも呼ばれます。
また、「縫う」を意味する広告ステッチングという呼び名もあります。広告がコンテンツに埋め込まれるため、シームレスな視聴体験を提供できます。広告がコンテンツの一部として表示されるため、広告ブロッカーを回避できるという利点もあります。
AVODの利点と欠点
ユーザーは無料でコンテンツを視聴でき、広告主、パブリッシャー、クリエイターはマネタイズできる。まさにwin-winです。AVODに多くの魅力があるのは事実ですが、課題がないわけではありません。このモデルの主な利点と欠点を見てみましょう。
利点
1 – 視聴者数が多い
84%のユーザーが、コンテンツを無料で視聴できるなら、広告が表示されてもかまわないと感じています。広告主やパブリッシャーには朗報です。AVODで好きなコンテンツにアクセスする視聴者が増えており、同市場の収益は2023年に411億3,000万米ドルに達すると予測されています。
2 – パブリッシャーにとってリスクが小さい
サブスクリプションベースのサービス(NetflixやDisney+など)とは異なり、AVODプラットフォームはコンテンツの制作や権利の購入に投資する必要がありません。自前のコンテンツは持たず、コンテンツクリエイターが動画をアップロードしてオーディエンスにリーチし、コンテンツに組み込まれた広告の収益の配分を受け取れるプラットフォームとして機能しています。
3 – コンテンツクリエイターへのインセンティブ
AVODプラットフォームでは、コンテンツクリエイターに動画をアップロードしてもらえるよう収益のインセンティブを提供しています。尽きることなく新しいコンテンツが登場するのはこのためです。コンテンツを多くの人が視聴すればするほど、広告の表示回数も増えます。つまり、プラットフォームには収益が増え、コンテンツクリエイターには配分が増えるということです。
4 – 広告ターゲティングの精度が高い
多くの広告主がAVODプラットフォームを活用したがるのは、大規模かつ多様なユーザーベースにアクセスし、パブリッシャーのデータにもとづいてパーソナライズしてターゲティングできるからです。
5 – 柔軟性
パブリッシャーは、さまざまな広告フォーマット(詳細は後述)からコンテンツに合うものを選択し、ストリーミングのどの時点で広告を表示するかを判断できます。このようにして、ユーザー体験と広告効果を両立できるバランスを見いだします。
欠点
1 – ユーザー体験の低下
広告が適切でない場合、ユーザー体験を損ね、視聴者数の低下や離脱につながる可能性さえあります。広告なしのプレミアムプランにお金を払ってもいいと思うユーザーもいるとは思いますが、ここで本当に重要なのは、正しいタイミング、クリエイティブ、頻度です。
2 – アトリビューションと計測に課題
動画視聴には受動的な性質があるため、広告主が広告の真の効果を計測するのは簡単ではありません。実際にCTAをクリックしない限り(コンテンツの視聴中であれば、その可能性はかなり低い)、ユーザーが広告を見てくれているのかさえわかりません。CMが終わるまでスマートフォンをいじっていたり、スナックをつまんでいたりするかもしれません。
3 – 収益が不安定
広告主が広告の表示数やクリック数にもとづいて支払う場合、パブリッシャーが得られる実際の収益は変動する可能性があります。広告がスキップ可能であれば、視聴者は広告を見ないかもしれません。その場合は、収益は発生しません。あるいは、前述したように、広告主はユーザーが実際には見ていない「表示数」に対して広告料を支払っている可能性もあります。パブリッシャーにとって、サブスクリプションオプションを追加することは、より安定した収益源を生み出す方法であるといえます。
AVOD、SVOD、TVOD、PVOD
AVODの概要を把握したところで、次はほかのマネタイズモデルとの違いを見ていきましょう。
SVOD
サブスクリプションビデオオンデマンドの略。このプラットフォームでは、ユーザーがコンテンツにアクセスするために、定期的に定額のサブスクリプション料金を支払う必要があります。SVODは、ニッチなコンテンツを特集し、コンテンツ制作に投資するケースが多く、ロイヤルユーザーの獲得につながっています。Netflix、Amazon Prime Video、Disney+などが挙げられます。
TVOD
トランザクションビデオオンデマンドプラットフォームは、AVODプラットフォームに似ており、ユーザーは無料で登録できますが、プラットフォーム上のコンテンツにアクセスするには、個別にレンタルまたは購入する必要があります。
AppleのiTunesなどが挙げられます。
PVOD
プレミアムビデオオンデマンドの略。このモデルはほかのマネタイズモデルと併用されることが多く、ユーザーはプレミアム料金を支払うことで最新コンテンツにいち早くアクセスできます。
Disney+は、2020年の『ムーラン』でPVODを効果的に活用しました。一部の国では、劇場公開とほぼ同時にPVODでの有料配信が開始されました。
AVODとFASTチャネル
無料広告付きテレビ(FAST)は、ユーザーがコンテンツにアクセスするためにお金を払う必要がなく、収益源が広告であるという点でAVODと原理は同じですが、大きな相違点があります。
FASTチャネルは従来のテレビ放送のようなリニア型で、CMを挟みながら多くのオーディエンスにコンテンツを配信します。AVODと異なり、ユーザーはチャネルで放送されるコンテンツをコントロールできません。Pluto、Tubi、Roku Channelなどのプラットフォームが人気を集めています。
AVOD広告の種類
前述のとおり、パブリッシャーは、AVODに表示する広告のフォーマットをさまざまな種類から選択できます。ここでは、主な種類を紹介します。
- プレロール広告:選択した動画が始まる前に再生されます。ユーザーの意識がまだ集中しておらず、視聴の準備を整えている段階なので、視聴体験の妨げにはなりません。
- ミッドロール広告:ミッドロール広告では、選択した動画の途中で広告が差し込まれ、広告終了後に本編が再開します。当然、これは視聴体験を損なう可能性があります。しかし、ユーザーは本編を最後まで見たいと思っているので、ミッドロール広告の長さ、頻度、配置を適切に調整すれば効果的にリーチできます。
- ポストロール広告:ユーザーが選択したコンテンツの終了時に表示される広告です。視聴者が興味を失うか、離れてしまうリスクが大きいため、冒頭で注意を引くことが重要です。
以下のような広告も思い浮かぶかもしれません。
- ディスプレイ広告:ディスプレイ広告は、動画に添付されるのではなく、プラットフォーム自体に表示されます。
- バナー広告:画面に広がるほかのフォーマットとは異なり、バナーは再生中の動画の上下左右に配置できます。
- インタラクティブ広告:ミニゲームや投票など、現代的かつ魅力的な演出で視聴者を引きつけ、インタラクションを促す広告です。
AVODモデルはパブリッシャーに適しているか
パブリッシャーとしてOTTプラットフォームのマネタイズをお考えなら、AVODモデルにより以下のようなメリットを得られます。
- 複雑なサブスクリプションモデルを管理することなく、比較的簡単な方法で新規ユーザーを獲得できます。
- プラットフォームを速やかに拡大できます。コンテンツ制作への投資は不要。
- コンテンツライブラリーを常に新しい状態に維持することで、幅広いオーディエンスベースにアピールし、ユーザーエンゲージメントを高め、離脱を抑えられます。
パブリッシャーとしてAVODを導入するには
AVODが自身に適したモデルであるという結論に達したら、以下のステップに従ってプラットフォームを立ち上げましょう。
- 動画のホスティングと管理には、信頼できる動画コンテンツ管理システム(CMS)を選びます。
- OTTプラットフォームをゼロから開発するか、OTTアプリビルダーに投資します。
- ユーザーへの迅速な動画配信のために、信頼性の高いコンテンツ配信ネットワークを選択します。
- さまざまな広告マネタイズオプションとテクノロジーを検討します。たとえば、広告はインストリーム(動画内)にもアウトストリーム(ページ上の別の場所に表示)にもできます。広告ポッドを使用して広告をグループ化できます。広告を画面に表示するには、VAST(Video Ad Serving Template)またはVPAID(Video Player Ad Interface Definition)のいずれかを選択します。
重要なポイント
- AVODはビデオオンデマンドのマネタイズ戦略の1つ。プラットフォームは収益を広告に依存する一方で、ユーザーは好きなコンテンツに無料でアクセスできます。もっとも有名なAVODプラットフォームはYouTubeです。
- AVODとは異なり、SVOD、PVOD、TVODでは、ユーザーはオンデマンドコンテンツにアクセスするために料金を支払う必要があります。FASTチャンネルは収益を広告に依存。リニア型のため、ユーザーはコンテンツをコントロールできません。
- 広告の配信は、クライアント側(プラットフォーム自体)またはサーバー側のどちらからでも可能です。前者はリアルタイムで調整でき、後者は広告を動画につなぎ合わせてシームレスな体験を提供します。
- パブリッシャーにとって、AVODは小リスクで柔軟なマネタイズモデルです。広告主にとっては、大規模、多様、かつ反応の良いユーザーベースにアクセスできるほか、セグメントとターゲットを詳細に絞り込めます。一方、コンテンツクリエイターは、コンテンツをアップロードすることで、収益の配分としてインセンティブを受け取れます。
- 無料のAVODは視聴者に好まれますが、不適切なタイミングでたくさんの広告が表示されると、視聴体験が損なわれます。広告主には計測とアトリビューションに関する課題があり、パブリッシャーの収益は、サブスクリプションオプションなしでは予測が困難になります。
- AVODの動画広告は、プレロール、ミッドロール、ポストロールなどコンテンツ内のさまざまなポイントで流せます。代替フォーマットとして、バナー広告、ディスプレイ広告、インタラクティブ広告があります。
- パブリッシャーとしてAVODプラットフォームの立ち上げを検討すべきなのは、迅速に規模を拡大したい、コンテンツ制作に投資したくない、幅広いオーディエンス向けのコンテンツを持っている、複雑なサブスクリプションモデルを避けたいなどの場合です。
- パブリッシャーとしてAVODを導入するには、信頼できるコンテンツ管理システムとコンテンツ配信ネットワークが必要です。また、広告を配信する場所や方法、経由するシステムも検討する必要があります。