巨大迷路で遊んだことはありますか。何度も道を間違えて、なかなか出口にたどり着かなかった。なんて方も多いのではないでしょか。地上からでは、自分が今どこにいて、A地点からB地点までどうやって行けばいいのか、的確に判断するのは至難の業です。
でも、迷路の全体図や拡大図を持っているとしたら。空を飛び、文字どおり鳥のように全体を見渡してルートを確認できるとしたらどうでしょう。
データ分析について言えば、より多くのレポートを集めれば集めるほど、より豊富なインサイトを獲得できるという誤解がマーケターの間に広がっています。
しかし、実際はその逆です。データを広く集めすぎると、本質を見失ってしまいます。
裏を返せば、ノイズを取り除き、ディメンションを正しく設定し、データをきちんとそろえ、適切にスライス&ダイスすることで、何がうまくいっていて何がうまくいっていないのかを明確かつ正確に把握できます。
何より重要なのは、データを正しい文脈で見ることです。これこそが、まさにマーケティング活動の肝といえます。
そこで登場するのがコホート分析です。
コホート分析により、A地点からB地点への最も効率的なルートを探し出すことができます。今回はその方法をご紹介しましょう。
マーケティング活動全体を見ながらパフォーマンス指標を相互参照することで、重要なトレンドが浮かび上がってきます。文脈を無視してデータを見続けていれば、このようなトレンドは埋もれたままになっていたはずです。
コホート分析の概要と取り組むべき理由
コホート分析とは、大規模なユーザー(または顧客)グループを、共通の特性を持つ小さなセグメントに分割し、一定期間にわたって分析するプロセスを指します。
共通の特性には、地域、言語、好みのアイテム、獲得日などがあります。
モバイルアプリの領域で、特定のユーザーグループとアプリのエンゲージメントの経時的変化について詳細なインサイトを獲得し、精緻なKPIでキャンペーンパフォーマンスを計測したいなら、コホート分析が非常に効果的です。
コホート分析の主なユースケースは次のとおりです。
- ユーザー獲得(UA)キャンペーンの最適化 – パフォーマンスが低く、是正措置が必要なセグメントをピンポイントで把握します。
- ユーザーリテンションと生涯価値(LTV)の向上 – 良質なユーザーのリエンゲージメントを図り、基盤を拡大します。
コホート分析の大きなメリットは、同一条件で比較してトレンドを特定できることで、個々のユーザー単位で行動分析を行わなくても、経時的な変化を確実に監視できます。
コホート分析により、次のような重要な問いに答えられるようになります。
- どのようなユーザーがアプリにエンゲージしているか?
- ユーザーが離脱するのは主にどのようなタイミングか?その理由は?
- 新規ユーザーと長年のユーザーの収益の割合は?
- ユーザーへのリエンゲージメントに最適なタイミングは?
- 最もROIの高いユーザーをもたらしたメディアソースは?
2本柱 – コホートの2つの主要モデル
よく用いられるコホートタイプは、UAコホートと行動コホートです。それぞれどのような意味を持ち、マーケターの日常業務にどう応用できるのでしょうか。確認していきましょう。
ユーザー獲得(UA)コホート
獲得コホート分析は、広告主やUAマネジャーにとって欠かせない手法です。
獲得日とソースに基づいてユーザーをセグメント化し、製品や分析のニーズに応じて日次、週次、月次ベースで実行できます。
たとえば、地域ごとに複数のコホートを作成できます。そこから、各ユーザーの最初の30日間のアクティビティを計測し、ユーザーあたりの平均セッション数をコホートごとに比較できます。
このタイプのコホート分析をどう活用できるでしょうか。
EコマースアプリのUAマネージャーの場合を考えてみましょう。コホート分析を使用して、ユーザーのさまざまなの属性に合わせてスタイルやサイズの好みをトラッキングし、在庫を管理することで、売上を最大化できます。
また、ターゲットを絞っておすすめ商品を紹介し、プロモーションオファーをパーソナライズして、顧客の信頼やロイヤリティを向上できます。
行動コホート
ユーザー獲得コホートとは異なり、行動コホートに注目するのは主にプロダクトマネジャーです。
このタイプのコホート分析は、ユーザーがアプリを使用しているときの行動に焦点を当てます。特別なイベントトリガーを使用することで、さまざまな属性のユーザーの行動を計測し、それに応じてキャンペーンを最適化し、パーソナライズできます。
たとえば、フードデリバリーアプリについて考えてみましょう。行動トリガーとなるのは、料理の選択や注文頻度などです。
ソーシャルメディアのアカウントを運用している場合は、行動コホートを活用することで、スペイン人ユーザーによるフォローが多いページや、インド人ユーザーによる「いいね!」が多い投稿などを計測できます。
理屈はわかった。でも本当に必要か?
コホートデータを突き詰めていくと、獲得日やリマーケティングのコンバージョンをパフォーマンス指標に結びつけることができます。
言い換えれば、ノイズの除去、同一条件での比較、離脱を阻止するための実用的なインサイトの獲得、キャンペーンのパフォーマンス、アプリのエンゲージメント、機能の導入といった流動的な目標の追跡に役立ちます。
まだ納得がいかないという方のために、ユーザーあたりの平均収益(ARPU)についても見ていきましょう。
ノイズを洗い出し除去するには、ARPUを日別で比較するだけでは不十分です。APRUを似ている曜日で比較したり、ユーザー数やアクティビティを比較したり、アプリ内購入を促進するためのプロモーションの有無を比較したりする必要があります。
複数のKPIを並べて戦略の効果を評価するには、コホート分析がうってつけです。ただ、ここまで見てきたように、KPIを分析して終わりではありません。
コホート分析で隠れたトレンドを明らかにすることで、実施中のキャンペーンを最適化し、リアルタイムで調整するために必要なインサイトを獲得できます。コホート分析はエンゲージメントと収益を向上させる実証済みの方法であり、導入拡大とリテンション強化に向けた正しい道筋を示してくれます。
コホート分析はマーケティング戦略の強化にどう役立つか
いい質問です。ここでは、コホート分析が活躍する4つの実践的な事例を紹介します。
1 – 実用的なインサイトを利用し、広告予算を有効活用
コホート分析により、最も質の高いロイヤルユーザーを生み出しているのはどのチャネル、キャンペーン、あるいはキャンペーン内の広告セットなのかを把握できます。
たとえば、UAキャンペーンの地域間共通のパフォーマンスを見れば、パフォーマンスの低い地域を簡単に特定できます。
それをもとに、該当地域でのコンバージョンの改善策を考えてみましょう。現地の祝日にちなんだ特典やクーポンコードをパーソナライズされたメールで送れば、購入を促す効果を期待できます。
同一のUAキャンペーンでコホート分析を行った結果、ある地域ではアプリのインストール数自体は少なくないものの、アプリの起動や購入がまったくないことが判明したとします。これは不正が疑われるケースであるため、MMPを活用してより詳細な分析を行う必要があります。
2 – インサイトにより、リエンゲージメントの最適なタイミングを把握
コホート分析により、ある地域でユーザーの支出が4日目あたりで停滞することが判明した場合、その時期に合わせてリマーケティングキャンペーンを実施してみてはいかがでしょうか。
季節性やタイミングは重要です。「ユーザーにエンゲージするには何月、何日、何時が最適か」と自問していけば、より価値の高いユーザーの獲得につながります。
時間単位の粒度が重要になるケースもあるため、コホート分析は、キャンペーン実施のタイミングを見極めるうえで非常に価値あるインサイトを導き出せます。
3 – ユーザージャーニーの障害を特定、排除し、リテンションを促進
コホート分析を活用すれば、オンボーディング、使い始めの段階、ペイウォール、難易度の高さなど、アプリからの離脱が起きやすい領域と毎月のユーザーリテンションを相互参照し、ペインポイントを明らかにできます。
アプリエンゲージメントやユーザーリテンション戦略の理論と実践について詳しくは、こちらをご覧ください。
4 – 製品の変更がユーザーに与える影響を把握
診断の結果問題が明らかになっても、その問題を修正したり機能を改善したりする方法がやすやすと見つかるとは限りません。
たとえば、ユーザーのエンゲージメントがコア機能の使用に大きく依存していることがわかっている場合、メールやプッシュ通知の量を増やしてエンゲージメントを強化しようとしても逆効果であり、離脱につながる可能性が高まります。
製品をやみくもにリニューアルしてしまうのではなく、まずはコホートでA/Bテストを行い、何がうまくいき、何がうまくいかないかを把握しましょう。そうすれば、リスクを抑えながら、データに基づいて製品をアップデートできます。
実践編 – 日々取り組むべきコホート分析の3つのユースケース
例1 – 複数地域のリマーケティングキャンペーンの成否を評価
キャンペーンを地域に合わせて展開すれば、ユーザーにパーソナライズされた体験を提供できます。たとえば、週末に向けたショッピングキャンペーンを打つ場合、米国では金曜午後にローンチしますが、エジプトでは木曜日になります。週末が金曜日から始まるためです。
ショッピングの場合、リマーケティングキャンペーンに含まれるKPIとしては、アプリ内購入をしたユーザー数、購入による収益、リエンゲージしたユーザーの割合などが一般的です。ただ、コホートレポートを活用すれば、多次元分析によりユーザーの行動、KPI、成功指標の全体像を把握できます。
次のシナリオを見ていきましょう。
あるショッピングアプリが英語圏の複数の国でリマーケティングキャンペーンを実施しました。UAマネージャーは、対象者のうち実際に何人のユーザーが購入に至ったのかを知りたいと考えています。
まず、キャンペーンがどの地域で最も高い成果を上げたのかを評価するために、結果を国別にグループ分けしました。
キャンペーン後にアプリにリエンゲージした1万4,000人のユーザーのうち、約80%が米国内のユーザーで、彼らが最も多く購入に至っていました。
しかし、コホートレポートをよく見てみると、興味深いトレンドが浮かび上がってきました。カナダのユーザーのエンゲージメント数はオーストラリアのユーザーの半分ほどでしたが、カナダのユーザーはオーストラリアのユーザーよりもはるかに多くの金額を費やしていたのです。
オーストラリアでは量で成果を上げたものの、収益はそれほど上がっていない。UAマネージャーは、同じデータセットをいくつかの異なる角度から見ることでその事実に気づきました。そのおかげで、迷うことなくカナダのキャンペーンを強化できます。
例2 – メディアソースのROIを評価し、広告収益につなげる
ゲームアプリでは、アプリ内購入と広告収益が2大収益源です。特にハイパーカジュアルゲームには両者からの収益が欠かせません。
コホート分析では、すべての収益源に関するインサイトを獲得できるため、「どのメディアソースが最もアプリ内購入に貢献したか?」、「メキシコでユーザーあたりの収益が最も高かったキャンペーンはどれか?」といった問いに答えることができます。
広告を主な収益源とするハイパーカジュアルゲームのPPCマネージャーが、広告収益に大きく貢献しているメディアソースについて指標を収集する場合を考えてみましょう。
広告収益レポートでは、新規ユーザー獲得のROIについて全体像を把握できます(数字はすべて仮定のものです)。
- メディアソース1の広告費は8万8,594ドルで、58万6,000ユーザーを獲得。ゆっくりですが着実に増加しています。
- 一方、メディアソース2は、UAがきわめて安いものの、メディアソース1よりも広告収益が高くなっています。インストール後7日目までには、メディアソース2がメディアソース1よりもはるかに損益分岐点に近くなっています。
- さらに読み進めると、メディアソース2が12日目あたりで損益分岐点に到達するに対し、メディアソース1に当分その気配はないことがわかります。
このように、いくら全体を見渡してもメディアソース1が赤字から抜け出せないことがわかれば、貴重な予算を適切に配分できます。
例3 – アプリ内イベントに合わせてリテンションを評価
配車サービスやフードデリバリーのようなオンデマンドサービスを提供するアプリでは、主にアプリ内イベントが成功のKPIになっています。ダウンロードはもちろん重要な要素ですが、コンバージョンとリテンションの成功度合を示す指標としては、実際のサービス利用の方がはるかに有力です。
アプリでアクティブなユーザーベースを維持するためのインサイトを獲得する手段として、コホートの姉妹レポートであるリテンションレポートも役立ちます。エンゲージメントから利用までの包括的なビューを提供し、どのメディアソースがより多くのエンゲージメントを促進するかを経時的に確認できます。
たとえば、タクシー予約アプリのマーケティングマネージャーが、アプリをダウンロードした後に乗車予約をした新規ユーザー数に基づいて、キャンペーンの成否を評価する場合を考えてみましょう。
ダウンロード数だけを分析すれば、メディアソース1が明らかに勝っているように見えます。
しかし、インストール後10日目までのデータを幅広く見ると、絶対数として、メディアソース2がより価値の高いユーザーを獲得し、リテンション率を高めていることがわかります。
インストール当日とそれ以降のユーザーの行動を分析すれば、キャンペーンによるリテンションの成否をメディアソースごとにより明確にイメージできます。
コホート分析を成功させるための4つのステップ
ステップ1:適切なクエリセットを選択
KPIと成功指標が定まれば、正しい方向に舵を切ることができます。まずは、何を把握したいのかを明確にしましょう。
キャンペーンを並列して計測し、メディアソースを比較したいとお考えでしょうか。あるいは、さまざまな地域にまたがる単一のキャンペーンの成否を計測したいのでしょうか。成功をどのように定義しますか。
次のステップに進む前に、これらの問いをしっかりと押さえておきましょう。
ステップ2:指標を定義
答えが必要な問いと、それに答えるために必要な指標について考えがまとまった時点で、目的の半分は達成したも同然です。
コホート分析の問いを考えるうえで役立つのが、類似した特性を持つユーザーをグループ化し、特定の期間で行動や指標を比較するという方法です。
特性 | パフォーマンス(KPI) | 期間 |
国 | 1日あたりのセッション | 先月 |
メディアソース | ユーザーあたりの収益 | 3週間前 |
広告キャンペーン | ユーザーあたりのアプリ内イベント | 6月の5日間 |
特性は成果計測対象となる属性、KPIは分析対象となる指標、期間は計測の時間枠を表します。
アプリマーケティングのKPIについて詳しくは、こちらをご覧ください。
ステップ3:コホートを定義
重要なのはここからです。
次の手順を実行します。
- 粒度、日付範囲、アトリビューション期間を設定します
- コホートタイプ(UA、リマーケティングなど)とトレンドタイプ(LTVなど)を選択します
- 有意でないデータでレポートが散らかってしまうのを避けるため、グループ属性(メディアソースなど)と最小のコホートサイズを選択します
- 関連性のあるフィルター(キャンペーン、アトリビューションタッチタイプ、国、キーワードなど)を選択します
ステップ4:コホート分析を実行し、結果を評価
あとは実践あるのみです。
サイロ化されたレポートを見るだけでは、全体像を把握したり、実用的なインサイトを引き出したりすることはできません。データをスライス&ダイスしてこそ、さまざまな地域でのアプリのダウンロード数やROAS(広告費回収率)といった興味深いトレンドを掘り起こすことができます。
AppsFlyerのダッシュボードでコホートレポートを設定する方法について詳しくは、こちらをご覧ください。
重要なポイント
- コホート分析とは、大規模なユーザー(または顧客)グループを、共通の特性を持つ小さなセグメントに分割し、一定期間にわたって分析するプロセスを指します。
- 特定のユーザーグループとアプリのエンゲージメントの経時的変化について詳細なインサイトを獲得し、精緻なKPIでキャンペーンパフォーマンスを計測したいなら、コホート分析が非常に効果的です。個々のユーザー単位で行動分析を行う必要はありません。
- コホート分析の主なユースケースは次のとおりです。
- UAキャンペーンの最適化 – パフォーマンスが低く、是正措置が必要なセグメントをピンポイントで把握します。
- ユーザーリテンションとLTVの向上 – 良質なユーザーのリエンゲージメントを図り、基盤を拡大します。
- 業種を問わず、コホート分析を使えば、UAやリテンションに関する問いに答えることができます。見るべき内容と方法を知ることが、コホートレポートが示す膨大なデータを読み解く鍵となります。
- コホート分析は、今後のキャンペーンのKPIや、キャンペーン成功のベンチマークの設定に役立ちます。