はじめに
マーケティングのパフォーマンスは何よりもまず正確な計測が基盤となり、マーケターの計測の質が成果を上げるうえで非常に重要です。このことに驚く人はいらっしゃらないでしょうが、データの重要性が叫ばれる中では、この点を改めて強調しておく必要があります。
逆に言えば、データが不正確であれば、誤った判断、誤った行動につながる可能性が高くなり、結果的に苦労して手にした多額の資金を失うことにつながります。詳しくは以降で説明しますが、もはや広告主は単一ソースからのデータを使用することはできず、サイロ化された複数ソースのデータをまとめて全体像を把握することもできません。
同じ1回のインストールが複数のアトリビューションソースのレポートに含まれていて重複が生じていれば、キャンペーンのパフォーマンスの全体像を正確に知ることはできません。
制限されたデータの扱いやユーザーレベルデータへの非常に厳しいアクセス制限に対処する方法がわからなければ、総合的な効果のあるキャンペーンを計画し、実施することはできないでしょう。
不正行為や誤ったアトリビューションが行われている可能性があり、ROIデータが汚染されていれば、成長を促進し業績を上げることは実際にはできないのではないでしょうか。
それにもかかわらず、Excelは優秀だと言って、偏りのあるデータ、重複や欠損のあるデータ、雑然データを使ってパフォーマンス計測が行われているのはなぜでしょうか。
実のところ、データ整合性を実現するための道のりは、知ることに始まり知ることに終わるものです。何がわからないかがわかれば、道はおのずと開けます。
ここでは、これまでの「データの不正確性」の問題から抜け出すために、もっとも厄介で多く見られるデータの不正確性を6つに分類しました。そのうえで、モバイル計測におけるいくつかの複雑な概念を整理し、マーケターがアクションアイテムに落とし込めるようにわかりやすい項目にまとめました。
さっそく見ていきましょう。
差異に注意 – データの差異について知っておくべきこと
そもそもデータの差異とは
定義を考えると、データの差異とは、複数の事実の間に矛盾があること、または共通性がないことです。
モバイル広告のエコシステムに即して考えると、データの差異とは、インプレッション数、クリック数、インストール数、エンゲージメント数、コンバージョン数、アプリ内イベント数(英語)、KPIなどの計測データに複数のプラットフォーム間で矛盾があること、または共通性がないことだと言えます。
それでは、モバイルアトリビューションの分野の現実的な実例を使って、この理論を実践に移していきましょう。
MMPとSRN
正確なデータは、マーケターが適切な判断をしてROIを向上させるのに役立ちます。それはわかっていますが、その実現の過程には、さまざまな差異やサイロ化、誤計測などが立ちはだかり、データの正確性を確保するのは、言葉で言うほど簡単ではありません。
それでは本題に入ります。Mobile Measurement Partner(MMP)(英語)と、Google、Meta、Apple、Twitter、Snapなどのセルフレポーティングネットワーク(SRN)の間で生じることがある、一般的なデータの差異について少し確認しましょう。
ここで注意しておきたいのは、SRNはアトリビューションや計測方法に関して頻繁に変更を加えているため、このガイドの公開時点ですでにここに記載された内容から変更になっていることも考えられます。必ずMMPにご相談のうえ、最新のガイドラインをご参照ください。
1 – ラストタッチアトリビューション
ユーザーには複数のメディアソースの広告が表示されます。メディアソースにSRNが含まれている場合、ユーザーがインストール前にそのSRNの広告を閲覧またはクリックしていると、SRNはインストールのアトリビューションを主張します。
たとえば、Metaの広告をクリックしてから7日以内にインストールに至った場合、Metaはインストールのアトリビューションクレジットを要求し、Ads Managerのレポートに反映されます。
ところが、SRNで配信された広告でエンゲージメントのあったユーザーがその後、別のメディアソースの広告のエンゲージメントを経て、アプリのインストールに至る可能性は十分にあります。
この場合、SRNはエンゲージメントのアトリビューションを主張しますが、MMPではアトリビューションクレジットが割り当てられません。これが、複数のチャネルで広告を配信している場合に差異が生じる原因となっていることがよくあります。
SRNでは通常、アトリビューションに関係なく、インプレッション数で請求されることに注意してください。しかしこの場合、MMPでは実際のアトリビューションが反映されます。それにより、マーケティング活動の正確なパフォーマンスがわかり、より効果的な予算の配分ができます。
2 – アトリビューション期間の違い
ほとんどのSRNおよびMMPでは、アプリインストールのデフォルトのアトリビューション期間(英語)は通常、クリックスルーでは7日、ビュースルーでは1日です。どちらのプラットフォームでも、広告主が必要に応じてアトリビューション期間を変更できるようになっています。
しかし、SRNとMMPでアトリビューション期間が異なる場合、これもレポートで差異が生じる原因となりえます。
たとえば、AppsFlyerでMeta Adsのクリックスルーの期間を7日に変更したとしましょう。この場合、Metaは1件のインストールをMetaキャンペーンにアトリビュートしますが、AppsFlyerのレポートでは1件のオーガニックインストールとして扱われます。
3 – アプリ内イベントのアトリビューション
多くのSRNのアトリビューションでは、クリックまたは閲覧から28日以内のアプリ内イベントが対象になります(AndroidおよびiOSで同意しているユーザーの場合)。MMPのアトリビューションでは通常、インストール後180日間のアプリ内イベントはSRNによるものと判断されます。
そのため、28日より長い期間のキャンペーンを分析する場合、MMPがレポートするアプリ内イベント数は、SRNがレポートする値よりも大きくなることがあります。つまり、アトリビューションの数字、およびキャンペーンに関連付けられたLTVとアプリ内イベントの数字に差異が生じます。
なお、Metaなど一部のSRNは、リマーケティングについてはビュースルーエンゲージメントのアトリビューションを行いません。つまり、これらの表示数はSRNではカウントされますが、MMPではカウントされません。
4 – ビュースルーコンバージョンレポート
ご存知のように、TikTokは最近、デバイスレベルでのビュースルーを部分的に制限し始めており、Metaはデバイスレベルのデータを広告主に提供しなくなっています。
Metaにアトリビュートされるインストールはすべて、MMPの集計レポートでMetaと正しく表示されますが、Metaのビュースルーインストールはデバイスレベルレポートのメディアソースに「restricted」と表示されます。
5 – エンゲージメント時間とイベント時間
ほとんどのSRNは、ラストクリック(英語)またはラストビューの時間をもとに、インストールとアプリ内イベントをレポートしますが、ほとんどのMMPはアプリの初回起動時間またはアプリ内イベントのコンバージョン時間をもとにレポートします。
6 – タイムゾーンの違い
SRNとMMPでは、プラットフォーム上のタイムゾーンの設定が異なっている場合があり、それがレポートに影響することがあります。1時間単位や1日単位など短期間のレポートの比較では、この差異による影響が大きくなる可能性があることを覚えておく必要があります。
7 – 構成ミス
時には、単なる実装ミスで、予期しない差異が発生することがあります。
MMPとアプリストア
MMPとアプリストアでアトリビューションに違いが出る主な原因は何でしょうか。これは重要なポイントです。
モバイルアトリビューションのエコシステムに関わる各事業者が使用しているアトリビューションモデル(英語)自体に違いがあるというのが事実です。この違いがあるため、アプリストアで記録されるインストール数がMMPより多い場合やその逆のことが起きる場合があります。
細かく見ていきましょう。
MMPのアトリビューションが少なくなる原因
1 – インストールの定義
アプリストアでは、ユーザーがアプリをダウンロードしてインストールすると、インストールとして記録されます。インストール後にユーザーがアプリを起動したかどうかは考慮されません。これに対してMMPでは、SDKが実行される初回起動後に初めて新規インストールとして記録されます。
つまり、ユーザーがアプリをダウンロードしてインストールしても、起動していない場合、MMPではカウントされません。
2 – インストールの記録日
アプリストアではダウンロードした日がインストール日として記録されますが、MMPでは初回起動日がインストール日として記録されます。
3 – タイムゾーン
アプリストアのデータは、広告主のローカルタイムゾーンに従って表示されます。これがMMPのタイムゾーンと異なっている場合があります。
4 – 定義済みのリアトリビューション期間内にアンインストールして再インストールするAndroidユーザー
Google Playでは、表示によっては、初回インストールからの経過時間に関係なく、1人のユーザーのユニークインストール数が2回となることがあります。その一方で、ユニークユーザー数の表示もあり、こちらはMMPに近い数字となります。
MMPの場合は、1回目のインストール時からリアトリビューション期間内(デフォルトでは3か月)は、再インストール時は新規インストールにカウントされません。
5 – 定義済みのリアトリビューション期間内にアンインストールして再インストールするiOSユーザー
iTunesでは、ユーザーがアンインストールして再インストールするたびに新規インストールとしてカウントされます。
MMPの場合は、Androidと同様、1回目のインストール時からリアトリビューション期間内(デフォルトでは3か月)は、再インストール時は新規インストールにカウントされません。
MMPのアトリビューションが多くなる原因
1 – MMPのSDKが含まれていなかったバージョンから、含まれるバージョンへの既存アプリのインストールのアップグレード
この場合、アプリストアでは同じユーザーと認識され、新規インストールとしてカウントされませんが、MMPではこのアップグレードがオーガニックインストールとして表示されます。
2 – デバイスIDのリセットと追跡型広告の制限(LAT)の不正
デバイスID(英語)のリセットと追跡型広告による不正インストールは非常によく行われています。これについては、アプリストアでは新規インストールと見なされませんが、MMPでは新規デバイスへの新規インストールと見なされます。
3 – サードパーティのAndroidアプリストアおよびプリインストールからのインストール
これらのインストールは、Google Playでは記録されませんが、MMPでは記録されます。
解決策
多くの場合は、知識と認識が重要ということになります。注意すべき点を知っていれば、どこに、何が原因で厄介な差異が生じる可能性があるかを予測でき、構成ミスを調整しなおしたり、ローデータを相互参照したりして、差異による影響を緩和しやすくなります。
ただし多くの場合、重要なのは、本当に必要な、信頼できる唯一の情報源としてMMPを活用することです。それにより、このような差異を迅速に特定して、データドリブンな意思決定ができるようになります。
プライバシー保護の時代のデータ – パフォーマンス計測への大きな影響
制限されたデータは不正確なデータと同じではありませんが、このようなデータを扱うための知識と手段がない場合、マーケティング活動の全体像を把握できるかどうかに影響します。全体像がわからなければ、判断の有効性は低くならざるを得ません。
それでは、ユーザーレベルのデータがとらえにくくなる特有の状況について検討し、新たに出てきたこのような課題を軽減するための実践的な方法を考えてみます。
AppleのApp Tracking Transparency(ATT)フレームワーク(英語)が登場し、業界において新しいプライバシー保護の時代への適応が続いており、データの正確性とユーザーのプライバシー保護の両立が重要となっています。
マーケティング活動の実際の結果について100%の確実性を確保することがきわめて重要ですが、そこで、マーケティングパフォーマンスの信頼できる唯一の情報源(SSOT)という考え方が出てきます。SSOTがあることにより、広告費の最適化、ビジネスの拡大、そして、プライバシーを犠牲にすることなくユーザーに優れたUXを提供する(英語)ことが可能になります。
しかし、SSOTを実現するにはどうしたらよいでしょうか。まずは、包括的なデータの可視化を実現するうえでの最大の課題の1つについて考えてみましょう。
1 – SKAdNetwork – (比較的)新しいアプローチ
AppleがiOS 14のアップデートをリリースし、それによりモバイルアプリのエコシステムに恒久的な変化がもたらされることになったとき、どのモバイルマーケターも次の点について考えました。
SKAdNetworkはキャンペーンを計測するための優れた方法となるのか(はい/いいえ)
しかし、時間とともに、実際にもっとも差し迫った問題は次の点だということが明らかになってきました。
サイロ化されたデータソースのすべてを信頼できる唯一の情報源にまとめるにはどうしたらよいのか
この新たな現実によってもたらされたのは、複数の現実の存在でした。iOS 14のリリースにより、マーケターは、SKAdNetwork(英語)から集計された確定的データ、ATTに同意したユーザーからのユーザーレベルのデータ、確率論的モデリング(英語)からの集計データ、インクリメンタリティベースのインサイト、Apple Search Ads専用APIなど、種類の異なる複数のソースからのデータストリームを受け取るようになりました。
しかし、どのデータストリームが事実を示しているのでしょうか。マーケターはこれらの入力データをどのように扱えば、自信を持って判断を下すことができるのでしょうか。
幸いなことに、この重要な問題に対する答えは存在します。その答えに進む前に、まずは問題自体を掘り下げてみましょう。
問題は山積みでもSSOTではない
SKAdNetworkには、他の計測方法にはない大きなメリットが2つあります。確定的であることと、すべてのユーザーを対象としている点です。しかし同時に、いくつかの大きなデメリットもあります。
SKANのLTVの計測(英語)は、広告主にとって大きな課題です。インストール後のデータが限定的である、すべてのフローに対応していない(モバイルウェブなど)、ポストバック(英語)に遅延がある、潜在的な不正の抜け穴があるなど、さまざまな問題があります。
このような制約の影響を軽減するために、マーケターによってはIDマッチングや高プライバシー一括設定、確率論的モデリングを利用していますが、それぞれに長所と短所があります。
具体的なニーズに応じて適切なモデルを選択する方法もうまくいきません。なぜなら、SKAdNetworkのデータは匿名化されており、同じコンバージョンが他のモデルでアトリビュートされているかどうかは誰にもわからないからです。各インストールは、SKAdNetworkのみのアトリビュート、他のアトリビューションモデルのみのアトリビュート、両方、またはどこからもアトリビュートされていない可能性が考えられます。
SKANの根底にあるのは「匿名化」です。仕様上、ユーザーレベルのマッチングを行うためのリバースエンジニアリングができないようになっています。
実際には、複数のデータソース、API、管理画面が存在することにより、正確で実用的なインサイトを得ることはほぼ不可能になっています。そのため、キャンペーンパフォーマンスの分析について、マーケターは推測に頼らざるを得なくなっています。
問題の解決
このように非常に厄介な問題を解決する唯一の現実的な方法は、統合管理画面またはAPIで、ユーザーのプライバシーを保護し、Appleのポリシーを順守しながら、データを結合し、重複を排除し、一元化することです。
SKANには制約があるため、プロトコルのコンバージョン値の処理を取り入れることでこれらの問題の多くは克服できます。これが、iOSでの広告主がSKANキャンペーンにおけるユーザーのLTVを計測する唯一の方法です。
64種類の値を適切にマッピングすることで、インストール後の収益、アクティビティ、リテンションを計測できます(ただし、ほとんどの場合、最大24~72時間分)。
データに制約があることに起因する異種混在のサイロ化された状態に対する答えは、コンバージョン値を利用して、情報を一元化(英語)することです。つまり、さまざまなアトリビューションソースについて、信頼できる唯一の情報源を構築します。それにより、それぞれの値を最大限に活かして、マッピングに使用できます。
コンバージョン値では、時間についても範囲についても、計測できるLTVに制約がありますが、集計レポートのレポートデータをまとめることができます。
2 – データクリーンルーム – ユーザーレベルのデータに直接アクセスせずに確固とした意思決定が行えるようになる仕組み
データクリーンルーム(英語)により、マーケターはプライバシー規制を順守しながら、統合されたデータセットの力を活かすことができます。データクリーンルームとは、基本的には、マーケターがユーザーレベルデータに実際に触れることなく、そのインサイトを活用できるようにするための手段です。
データクリーンルーム環境内では、個人を特定できる情報(PII)やユーザーレベルのアトリビューションデータが関係者の誰にも見えないようになっており、固有の識別子でユーザーを識別できないようになっています。
PIIおよびユーザーレベルデータは、さまざまな計測に利用できるように処理が施され、相互参照や他のソースのデータと組み合わせて使用することができる匿名化されたデータになります。
多くの場合、データクリーンルームから得られるのは集計レベルのインサイトのみです。たとえば、「アクションXを実行したユーザー(特定のユーザーではなく複数のユーザー)にはYが提供される」などです。ただし、ユーザーレベルの情報の提供が可能なのは、関連する当事者全員の完全な同意が得られている場合のみであることは覚えておく必要があります。
データクリーンルームの検討が必要な理由
データクリーンルームが信頼性の高いプラットフォームになっている重要な要因として、データガバナンスは信頼できるデータクリーンルームプロバイダーが行っていると同時に、データへのアクセス、利用可能性、使用についてデータクリーンルームに関わるすべての当事者の合意が取れているという事実があります。
このフレームワークでは、ある当事者が他の当事者のデータにアクセスできないようになっています。これにより、個人データやユーザーレベルのデータを、同意なく異なる企業間で共有することはできないという基本原則が守られます。
たとえば、あるブランドがMacy’sとインサイトを共有したいと考えたとします。そのためには、それぞれが保持するユーザーレベルデータをデータクリーンルームに置く必要があります。それにより、共通するオーディエンスに関して相手側が持っている情報を知ることができます。たとえば、リーチと頻度、オーディエンスの重複、クロスプラットフォームのプランニングと分布、購買行動、デモグラフィックなどです。
データクリーンルームは、キャンペーンのパフォーマンスを計測するための中間的な手段としても使用できます。ブランドは、オーディエンスに関するインサイトを推測で見積もるのではなく、プライバシーをしっかりと保護した状態で、AmazonやGoogleのファーストパーティデータの内容を正確に知ることができます。
それに対して広告主は、セグメンテーションおよび類似のオーディエンスを含み、個人の識別情報を伴わない、集計された出力情報を得ることができます。この情報をパブリッシャー、アドネットワークまたはDSP(英語)と共有して、キャンペーンに役立てることができます。
不完全なデータ – タッチポイントと関連コストの全体像の把握が最終的な結果に与える影響
今日の市場はデータの標準化という深刻な課題に直面しています。
適切かつ包括的なKPIのレポートがなければ、マーケターは誤った情報や部分的な情報をもとに、予算と最適化について重大な判断をしなければなりません。マーケターにとって最低の悪夢です。
コストレポートはゼロサムゲームであり、部分的なデータを使用するのは、使用するデータがないのと同じようなものです。データなしでは、どうやってキャンペーンの正確なROIを評価し、効率的に最適化し、予算の配分を決定することができるでしょうか。
不完全なデータをそのまま受け入れることはできませんし、そうすべきでもありません。コストや収益という非常に重要なデータを含むものであればなおさらです。
平均的なマーケターにとって、個々のソースからデータを抽出し、収集、集計、分析を行うのは、控えめに言っても骨の折れる作業です。それでもすべてのマーケターには、正確で完全なコストデータと併せて信頼できるアトリビューションデータを手に入れられるような環境が必要です。
支出:費用に関するデータの不正確性に伴う課題
- ROIと正確なROIは区別する必要があります。パフォーマンスマーケターにとって、正確なROIデータを使用できるのはもっとも理想的なことですが、不正確なROIデータをもとに仕事を進めるのは、マーケティング活動が阻害される可能性があり、アプリの財務上の安定性を損なうおそれさえあります。
- ブランドは通常5~30のアドネットワークを利用しており、このように多数のソースからのコストデータを正規化するのは途方もない作業となります。それは主に、多数のAPIを扱う必要があるためです。
- データを正規化したら、コストとアトリビューションのデータを集約する必要があります。この作業自体が難しいだけでなく、制約のある不正確なインサイトにつながります。
- データは常に変化します。キャンペーン実施期間の最初の数日は特に変化が見られます。そのため、正確性を維持するには、1日に複数回、頻繁にデータを更新する必要があります。
収益:収益に関するデータの不正確性に伴う課題
企業には通常、3つの主要な収益源があり、それぞれを個別に管理し、分析する必要があります。
- アプリ内課金(IAP)- 広告主はIAP(英語)が行われると即座にイベントを発生させますが、払い戻しや後払いを考慮し忘れていることが少なくありません。この場合、アプリストアのデータを使用した定期的な更新が必要になります。
- サブスクリプション収益の追跡には、複雑なプロダクトの構築または既製のソフトウェアの購入が必要です。いずれにしても広告主にはアトリビューションデータの統合という骨の折れる作業が残ります。
- アプリ内広告(IAA) – IAAにはほぼリアルタイムの即時性とユーザーレベルの機能が必要であり、維持するのは容易ではありません。また、広告収益の計測を社内で行うと、正確性が損なわれる可能性が非常に高く、意思決定にも影響します。
挑戦が好きなのは幸いです。
解決策1 – あらゆるソースからのコストデータの抽出
マーケターは、多数のソースからデータを抽出し、コストの抽出に適した方法を選択する必要があります。レポートデータの粒度と頻度が同レベルのソースは2つとなく、必要なときに必要な情報を取り出すのは、たやすいことではありません。
たとえば、クリックURLの構造やディメンションのタイプ、キャンペーンの命名規則、コストの指標に関する統一的な標準はありません(Twitterでは「ツイート」、Facebookでは「いいね」、Snapchatでは「スワイプアップ」が使用されているなど)。そのため、多数のネットワークのパフォーマンスとコストを横並びで比較するのは、果てしなく面倒な作業になりかねません。
それだけでなく、キャンペーンレベルでコストデータをレポートするネットワークもあれば、他の構造レベルでレポートするネットワークもあるため、優れたコストレポートソリューションには、柔軟性が求められます。
この問題に対処するには、不完全なデータや不正確なデータの再処理に役立つ、クリック、API、広告費取り込み(英語)機能など、さまざまな方法を使って必要なデータを抽出できるとともに、追加のデータソース(インフルエンサーチャネルやメールマーケティング、プッシュ通知など)の取り込みができる柔軟性も備えている広告効果計測プロバイダーと連携する必要があります。
解決策2 – データ管理フローの所有
他のネットワーク、パートナーまたはチャネルから定期的に、タイミングよくデータの提供を受けて、広告主が重要な意思決定を行えるようにするのは、現在ではほぼ不可能です。
他のチームと協力して差異や遅延、不整合を特定し、その都度データを修正する場合、実際の修正ができるまでに、その差異に関するやりとりにどれだけの時間が取られるかを考えてみてください。
たとえば、ネットワークから払い戻しがあったため、広告主が特定期間のROIの計算にそのチャネルの正確なコストを反映させる必要がある場合を考えてみてください。UIですばやく簡単に実際の数字を更新し、反映させることができれば、状況は一変します。
そのため、ソースや抽出方法にかかわらず、データパスのすべての要素を広告主が所有できるようになっていることで、問題が大きく軽減される可能性があります。
ゴミからはゴミしか生まれない – BIシステム全体を通じたデータ整合性の重要性
現代のマーケティングでは、アトリビューションデータがあらゆる判断のソースとなっています。しかし、どれほどマーケティングのBIが優れていて、チームが精鋭揃いであっても、意思決定のための入力パラメーターに間違いがあれば、意思決定の結果も間違ったものにならざるを得ません。
現在では、不正とアトリビューションの誤りの2つがデータに偏りが生じる主な原因となっています。どちらの場合も、計測結果が一見するとすばらしいので、収益性の高い適切な意思決定を行ったと信じてしまいます。 おそらく知らないうちに不正なトラフィックに資金をつぎ込むことになり、それを繰り返して規模が大きくなっていくと、恐ろしいほどのマイナスのキャッシュサイクル(英語)に陥ることになります。
不正とマイナスのキャッシュサイクル
マーケターによっては、ROIにより誤った安心感を持っている場合があるようです。
しかしそのようなマーケターは実際には、自分が正確なROIを知らないことに気付いていません。好調に見えているROIは、巧妙な不正で大幅に歪められた結果である可能性やプラットフォームのアトリビューションが不正確であるためにフォールスポジティブのアトリビューションが行われている可能性があり、その場合、大きな損失につながります。
インストール数がどこからきているのか、その数字は整合性が取れているのかなど、細部に注意を払うことなく、貴重な予算をマーケティング活動に費やすことになります。
数字は嘘をつきます。マーケティングデータを盲目的に信じてはなりません
多くの場合、マーケターの業績は単純な量で評価されます。そのため、上向きのグラフだけを見て満足し、その成長が適切な投資によるものであるか、何かまったく違う理由によるものなのかを考えません。
しっかり理解していなければ、投資の必要のないオーガニックユーザーにコストをかけることになります。ひどい場合には、他の適正なソースからクレジットを盗んでいる不正なソースに資金を投じることになります。そうなれば、ボットや偽のユーザー(英語)によって見かけ上の「好調な業績」を生んでいる不正なソースにさらに投資を重ね、その結果、何の価値も生まれなくなります。
多くの場合、役員会議などでこのような偽の成長傾向が見せられれば、見た目にはよく見え、関係者の承認が得られますが、その投資は無駄になり、詐欺的なビジネスに吸い取られることになります。
モバイル広告不正は21億ドル規模の産業となっており、あらゆる観点でマーケティングに長期的な影響を及ぼします(もっとも顕著なのは直接的な経済的損失です)。そして、その主な資金源となっているのは、対策も練らずにその存在を許している広告主です。
2021年を振り返ると、不正行為の大部分を占めていたのはインストールレベルの不正でした。ただし、CPA(英語)、リマーケティング、アプリ内購入については、金額的影響が大きくなるため、金額的に定量化して考える必要があります。
そして不正がデータに及べば、そのデータは意味のない、使えないものになります。実際のデータを確認できなくなり、適切な行為と不正行為を切り分けることも、データに依拠して今後の最適化を行うこともできなくなります。結果的に、ユーザーのクレジットを盗んだり、偽のユーザーを作り出したりする悪質なメディアソースへの投資を重ねることになるでしょう。
しかし何よりも、不正によって、貴重な時間と、非常に貴重な人的資源が無駄になります。不正の問題を解決するために、照合を行い、複雑な不正とパフォーマンスレポートの内容を解明するために膨大な時間を費やす必要が生じます。
モバイル不正の防止について詳しくは、『モバイル広告不正グローバル調査レポート』をご覧ください。
困難を乗り越える – データの不正確性への対処におけるローデータ
変化の激しいモバイルマーケティングの世界において、ローデータは、マーケターが優位性を築き、コストを節約し、将来にわたってビジネスレジリエンスを強化するのに役立ちます。
それでは、ローデータとは何でしょうか。基本的には、単一のアプリインストールや、アプリ内イベント(英語)、アンインストール、デバイスタイプなど、処理や分析ができる情報です。経験豊富なマーケターがローデータを活用すれば、ブランドのキャンペーンのパフォーマンスを大きく向上させるために役立てることができます。
ローデータを使用するメリット
どのマーケターでも避けて通りたいマイナスのキャッシュサイクルの話を覚えているでしょうか。ローデータを使用すれば、詳細な分析が可能になり、キャンペーンが本当にうまく行っているのかどうかを突き止めることができます。
効率性が重要
マーケターにはこれまで以上に効率性が求められるようになっており、最大限にROIを高められるように狙いを絞って取り組む必要があります。まさにそのためにローデータが役立ちます。リアルタイムでのトラフィックの最適化、重要な指標の確認(英語)、マーケティング活動の生涯価値の向上、費用対効果の改善が可能になります。
コントロールを取り戻す
広告主がオーガニックのデータ用、非オーガニックのデータ用、アプリ内イベント用、リマーケティング用にそれぞれ別々のエンドポイントを定義できます。
複数のエンドポイントを構成すると、必要に応じてデータを整理することや、「ノイズ」(関係のないトラフィックやイベント)の量を減らすことができるほか、インバウンドデータを効率的にコントロールでき、BIチームがデータを処理しやすくなります。
効果的なキャンペーンの計画策定にローデータを活用
ローデータレポートは貴重なインサイトで満ちています。以下に、一般的な活用方法をいくつか紹介します。
- ユーザーの行動の把握 – タイムスタンプを参考にすると、ユーザーのやりとりを詳細に確認でき、ユーザージャーニーのきめ細かい可視化が可能になります。
- 成長につながるUXの改善 – ローデータを使ってユーザーの行動が把握できれば、ユーザーエクスペリエンスの改善にそのインサイトを活かすことができます。
- パフォーマンスベースの料金 – ローデータレポートでは、ROIを明確かつ正確に把握できるため、一定の目標の達成に応じて代理店またはマーケターに請求する、パフォーマンスベースの料金モデルが可能になります。
- ユーザーセグメンテーション – コホート分析(英語)や同意しているユーザーレベルのデータを使用して、効率性に優れたユーザーセグメンテーションを行うことができます。
- 潜在的な不正行為の特定 – モバイルマーケティングにおける潜在的な不正を特定し、対抗するには、さまざまな方法があります。その1つは、ローデータを確認することです。それにより、同じデバイスに対して複数のIDを作成するような巧妙な不正事業者が相手であっても、疑わしいパターンがあれば発見できます。
たとえば、同じIPアドレスからのインストール回数や一意の識別子の数を確認すること、または合理的でないタイムスタンプ(1~5秒おきなど)や、1つのIDFV(英語)に対して複数のIDFA(英語)が存在することを見つけ出すことができます。
重要なポイント
- 不正確なデータ、不足のあるデータ、雑然データを使用していると、誤った判断、誤った行動につながる可能性が高くなり、結果的に苦労して手にした多額の資金を失うことにつながります。
- モバイルアトリビューションのエコシステムに関わる各事業者が使用しているアトリビューションモデル自体に違いがあります。このような違いがあるため、MMPとSRNではデータの記録や計測の方法が異なっている場合があり、データに明らかな差異が生じます。
- SKAdNetworkでは、もはや広告主が単一ソースからのデータを使用していることはできず、サイロ化された複数ソースのデータをまとめて全体像を把握することもできません。マーケティングパフォーマンスに関する信頼できる唯一の情報源(SSOT)があることにより、広告費の最適化、ビジネスの拡大、そして、プライバシーを犠牲にすることなくユーザーに優れたUXを提供することが可能になります。
- マーケターによっては実際のROIがまったくわからない場合があります。巧妙な不正でROIが大幅に歪められている可能性やプラットフォームのアトリビューションが不正確であるためにフォールスポジティブのアトリビューションが行われている可能性があり、その場合、大きな損失につながります。
- データの差異を軽減するためにもっとも重要なのは、認識です。注意すべき点を知っていれば、どこに、何が原因で差異が生じる可能性があるかを予測でき、構成ミスを調整しなおしたり、ローデータを相互参照したりして、差異による影響を緩和しやすくなります。
- ビジネスレジリエンスを確保する手段としてローデータを活用します。データの差異に対処するうえで役立つ有益なインサイトを引き出すことができるローデータの持つ可能性は、これまで以上に魅力的なものとなっています。将来にわたってキャンペーンを最適化するうえで役立つ優れた手段となります。
- 強力なMMPと連携することで、このようなデータの不正確性の問題のすべてとは言えないまでも、その多くに対処し、本当に必要な、信頼できる唯一の包括的な情報源を構築して、落とし穴があれば迅速に発見し、データドリブンな意思決定を行うことができます。